日本に100年企業が世界一多い理由。それは、売上や規模より先に「在り方」を問う日本式経営の哲学が、代々受け継がれてきたからだと私は考えています。その代表が、近江商人の「三方よし」です。
ただ、複雑化した今の時代、「三方」ではもうカバーしきれない領域が増えてきました。
この記事では、100年企業を支えてきた「在り方」の経営とは何か。そして、三方よしを現代に拡張した10の経営判断基準「十方位よし」について書いていきます。
この記事でわかること
– 日本に100年企業・1000年企業が世界一多い理由
– 「三方よし」が、なぜ今の時代には足りなくなってきたのか
– 10の経営判断基準「十方位よし」、それぞれの方位の意味
– 方位同士がぶつかったときの、優先順位の考え方
日本に100年企業が世界一多い理由
日本にある創業100年を超える企業が、何社あるか知っていますか。
世界最高数の、46,708社です。
さらに、創業1000年を超える企業は世界中に十数社しかないのですが、そのうち11社が日本の企業だと言われています(※帝国データバンク調べ)
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260327_shinise2025/
なぜ、ここまで多くの企業が長く続くのか?
技術力や資金力だけでは、説明がつきません。100年の間には戦争も恐慌も災害もあって、そのたびに事業環境は根こそぎ変わっているからです。
変わらずに残っていたのは、日本式経営の「在り方」の方だと考えています。
目先の利益より、商いを通じて誰の役に立つのかという問い。その問いを持ち続けた企業が、時代が変わっても選ばれ続けてきた。
その「在り方」を一番シンプルに言葉にしたのが、近江商人の「三方よし」の思想です。
「三方よし」だけでは、足りなくなってきた
「三方よし」とは、売り手よし・買い手よし・世間よし
つまり売る側・買う側・世間の三方すべてにとって良い商いを目指す、近江商人の経営哲学です。
私も、この言葉が大好きです。
でも、と思うのです。
「世間」という言葉は、目の前のお客様までなのか。地域も入るのか。この地球を持続可能にするには。次の世代、そのまた次の世代は。
複雑化する世界で、地球の資源の限界を考えたとき、今はもう「三方」では足りなくなってきています。
では、何を基準に考えたら良いのか。10年模索して、それは「十方位よし」だと定義できました。
「十方位よし」とは、三方よしを、[自分・仲間・顧客・仕入先・業界・地域・社会・地球・次世代・果ての世代]という10の方位に拡張した、経営の意思決定を検証するための基準です。
10の経営判断基準「十方位よし」
内側から外側へ、近い時間から遠い時間へ、順番に書いていきます。
1. 自分
一番内側に「自分」を置いていることに、違和感を持つ人もいると思うのです。理念の話なのにいきなり自分かよ、と。
でも、そもそも私たちは「自分が幸福である」状態でないと、人に与えることはできません。自己犠牲ではなく、価値観に沿って幸せに無理なく続けられていること。その人だけが、次の輪に光を渡せるので、自分を一番内側に置いています。
2. 仲間
共に働く仲間が幸福で、適正に報われて、それぞれの力をちゃんと発揮できていること。
正直に書くと、昔の私はここがまるでできていませんでした。自分に余裕がなくて、辞めていくスタッフに「ここまで育てたのに」と思ってしまった時期がありました。この「仲間よし」がないと、事業は続けることができません。
3. 顧客
お客様が、本当に望んでいた変化を手に入れて、依存ではなく自立に向かっていくこと。煽りや不安で買わせないこと。
私はマーケティングの専門家ではありますが、買ってもらうための「マーケティングファースト」ではなく、「マーケティングが不要になる」ための構造設計をしたいと思っているのです。
4. 仕入先
共に発展しあえる、お互いがWIN-WINになれる関係。
どちらかが我慢して成り立つ取引は、続きはしません。「フェアトレード」の精神で、同じくらいの基準で与え合える企業と共に成長しあうことが、健全な世界を作るために大切だと考えています。
5. 業界
持続可能に、適正に育っていくこと。顧客や社員の暮らしをよくする会社が、一社でも増えること。私はそんな会社の裏側の支援をしています。
ただし、業界の盛衰は時代のニーズに大きく左右されていくので、ひとつの業界の発展だけを考えるのではなく、世界全体の経済バランスの中で、適正な業界が育つことを考えています。
6. 地域
我が社の活動や営業によって、地域も適切に発展していくこと。
場合によっては、統合したり、閉じたりすることも含みます。地域全体の最適化のためなら、自分の店をたたむ判断も、方位のひとつだと思っていて。
7. 社会
社会全体の幸福度の、平均値が1ミリでも上がる方向に働くこと。
「搾取されない人を作る」などは非常に難しい問題ですが、すべてを解決できなくとも「1ミリマシにする」に。誰かの幸福を削って全体を良くするのではなくて、平均そのものを底上げしたいのです。
8. 地球
プラネタリーファースト。SDGsの17項目すべてに向き合うこと。
この世界は、人間だけのものではありません。今の時代の私たちだけのものでもありません。9番と10番でお伝えしますが、これからの経済は「プラネタリーファースト」にしていかないと、先の世代にツケを払わせることになります。
9. 次世代
「大人になるの、楽しみ?」と子どもに聞かれて、よどみなく「うん」と言える。そういう社会にすること。
子どもが見ているのは、目の前の大人が楽しそうかどうか。それを通じて社会を知っていくので。20年後の未来を楽しみにできる世界を作ることを、大切に考えています。
10. 果ての世代まで
いつか文明は滅びますし、必ず終わりは来ます。それでも、その果ての世代まで、少しでも美しいこの世界を守れるような在り方を目指します。
この方位だけは、円を閉じないようにしています。九つ目までは輪として描けるのだけれど、十個目だけは、果てがない。星の彼方まで、区切りなく開いたままです。
方位がぶつかったときの、優先順位
並べてみると、十個もあるので、当然ぶつかります。
たとえば、顧客よし(安くしたい)と、仲間よし(適正な報酬)は衝突します。
今の日本経済を良くしようとすると、AIに取り組むことはとても大切なことですが、AIを過剰に使うと大量の電力(=資源)を食い潰すので、地球にとっては決して良いものではなくなってしまいます。
そのときは、基本的に**より上位の方位を優先する**、ということを定義づけています。
より広く、より長く、より遠い未来に効くほう。目の前の損得より、波及と持続を上に置く。
これは、十段階の固定順位というよりは、そのつど「どっちがより遠くまで効くか」で選ぶ、という感じです。
それでも、バランスは難しい
ただ、ぶっちゃけ、非常にバランスは難しいです。
プラネタリーファーストになりすぎると、資本主義の競争に負けて、経済成長や地域経済、ひいては顧客や仲間、自分の「よし」を得られなくなってしまいますよね。
複雑で、多様なこの世界。
100年前の商人たちも、きっと同じように迷いながら、それでも「在り方」を手放さなかったのだと思います。
十方位を意識する人が増えれば、世界は、案外1ミリくらいは、マシになるのかもしれません。
よくある質問(FAQ)
Q. 日本に100年企業が多いのはなぜですか?
A. 日本には創業100年を超える企業が46,708社あり、世界最多です(※帝国データバンク調べ)。技術や資金だけでなく、目先の利益より「在り方」を問う日本式経営の哲学、その代表である近江商人の「三方よし」の思想が受け継がれてきたことが大きいと考えています。
Q. 十方位よしとは何ですか?
A. 近江商人の「三方よし」(売り手・買い手・世間)を、自分・仲間・顧客・仕入先・業界・地域・社会・地球・次世代・果ての世代の10の方位に拡張した、経営の意思決定を検証するための基準です。ひとつの判断が、この10方位すべてに「よし」を回せているかをたしかめます。
Q. 三方よしとの違いは何ですか?
A. 三方よしは「売り手・買い手・世間」の3つを対象にします。十方位よしは、その「世間」をさらに、仕入先・業界・地域・社会・地球・次世代・果ての世代へと解像度を上げ、時間軸も遠い未来まで含めて考える点が違いです。
Q. 方位同士がぶつかったら、どう判断しますか?
A. 基本的に、より上位の方位(より広く、より長く、より遠い未来に効くほう)を優先します。固定の順位表というより、そのつど「どちらがより遠くまで効くか」で選ぶ、相対的な判断です。
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執筆者:田中紗代(NS-PROJECT株式会社 代表/リーダーのビジネスプロデューサー)
長年にわたり起業家の支援に携わり、現在はLLMO(生成AIに引用・推薦されるための最適化)に関する著書を執筆。「十方位よし」は、私が提唱している経営哲学です。
